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2001年8月号

コラム 平成12年度 学校基本調査報告書に見る専門学校の盛衰  第8分野(文化・教養)

入学者数47,680人は過去最高。入学定員の増加も続き、充足率は75.4%

 専門学校を分野別に見るシリーズ、12年度最終回の今回は第8分野(文化・教養)。使用する資料は文科省の『学校基本調査報告書』の50分類で、平成に入ってからの12年間の推移を、前号同様に入学定員、入学者数の推移に絞って見てみたい。


▼「デザイン」「音楽」は減少へ

 第8分野(文化・教養)の入学者数は、平成6年度、7年度に若干減少したものの、以降は比較的順調な推移を辿り、12年度の入学者総数は47,680人で過去最高となっている。実数でも対前年度805人の増加となった。また、専門学校全体のピーク時からは約10ポイント(表は、専門学校全体のピーク時である4年度を100として計算)の拡大となっている。

 一方、入学定員も平成に入ってからは毎年増加し、12年度の63,272人は同様に過去最高である。これらの数字を見る限りでは、専門学校全体の推移とは若干趣を異にして、文化・教養はいまだに発展途上にあるといえる。

 なお、文科省では、「外国語(805)」、「通訳・ガイド(808)」をこの分野に分類しているが、専門学校の実態に合わせて、本誌では第6分野に加え、「商業実務・外国語」として分類・集計をしている。これらについては本誌5月号で紹介したのでここでは省く。

 また、50分類には、「受験・補習(809)」という分野があるが、これは一般課程のみの学科なのでここでは省略した。そのため、次ページからの表には、以上の3つを省略しており、分野の合計人数は学校基本調査報告書の数値と一致しないことをお断りしておく。

 表を一見すると、全体的には比較的安定しているものの、必ずしもすべての系において安定しているのではないことがわかる。分類の仕方の問題もあるが、拡大しているもの、縮小しているものとがある。また、12年度の数字を見ただけでは一概に縮小、拡大とはいえない系もある。それぞれの系がどのような動きを示しているのか、次に見てみる。


★801「音楽」

 6年度を除いて入学者数は若干ではあるが着実に増加している。12年度は過去最高の8,790人となった。また、入学定員と入学者数を比較しても、過去12年間、常に入学者数が定員を上回り、一度も定員割れを起こしていないことは特筆に値する。

 専門学校のみならず学生全体の就職が氷河期にあるといわれるが、この分野の学科はもともと就職には必ずしも直結していないものが多い。また、ライセンス志向といわれる世相にも無縁な分野であり、その人のもっている才能が全ての世界といえる。

 それにもかかわらず、これらの数字が示しているように、この系が根強い人気を保っているのは、手軽に音楽を創作・演奏することができる環境が格段に整いつつあることも理由の一つであろう。また、音楽業界の裏方で活躍する人にも最近ではスポットが当てられるようになり、メディアで注目を集めていることなども、若者が音楽を「憧れの職種」として夢を膨らませやすくなった、からともいえる。

 近年この業界は音響機器・技術の発達によって、職種も従来とは比較にならないほど細分化されている。ピアノ、音楽という古くからあるものと、新しい技術に基づいた新しい職種が混在している。今後、爆発的な拡大が続くとは言えないまでも、音楽業界は安定した成長を続けることが充分に予想されるので、この系の将来には明るいものがあるといえよう。


★802「美術」

 この系の入学者数のピークは、3年度で2,166人であった。以後、4年連続で縮小し、7年度にはピーク時の60%以上(実数にして961人に)減少した。翌8年度に急激な増加を一時的に見せたものの、以降は若干の増減を繰り返しながら、傾向としては減少方向に向かっている。

 この系は大学や短期大学などに類似した学科が多く、それらとの競合関係という宿命的な問題を抱えている。また、同じ美術系でも最近ではコンピューターを利用するグラフィックデザインを中心に、「コンピューター」「デザイン」への入学希望者が流出してもいることも原因の一つといえよう。今後の推移を注意深く見守りたい。


★803「デザイン」

 専門学校全体のピークと同じく、入学者数のピークは4年度で1万6744人。「その他」を除けばこの分野唯一の1万人以上の規模を誇っているが、若干安定さに欠けるきらいがある。入学定員が毎年拡大していることとは裏腹に入学者数は不安定な推移を辿っている。

 「デザイン」と一口にいっても、7ページ囲みの分類表を見てもわかるとおり、グラフィック、インテリア、産業、環境など多岐にわたっている。これらすべてをカバーするために次々に学科を新設するという、いたちごっこ現象が見られなくもない。入学者数と定員数との差が徐々に拡大しつつあることにも注目したい。学科の改廃にもう一工夫が必要ではないか。


★804「茶華道」

 この系は、単独の分類として分析するには規模が小さすぎる。また、「茶華道」の学科を持つ学校も少なく、単独の分類としてはほとんど意味をなさない。


★805「演劇・映画」

 9年度に入学定員(4,160人)・入学者数(4,204人)ともにピークとなったが、10年度に一転して大幅に落ち込んだ。しかし、以降は、入学者数は、ほぼ3,800人程度に安定している。

 男女比を見ると、元年度には7対3の割合だったものが、12年度には5.5対4.5となり、女子の進出が目覚ましい。女子に限っていえば、過去12年間連続して増加している。ただし、この系は出口(就職)の問題とのからみで、入学者数が大きく増減する危険性を内包していることを指摘しておきたい。


★807「写真」

 この系は、過去3年間連続して入学定員が減少しているが、12年度の入学者数1,451人は過去最高となっている。
 また、男女比を見ると、12年度ではほぼ半々で、近年女子の進出が目覚ましい。この時期は10代、20代の人気女性カメラマンが社会で活躍するようになった時期ともかさなる。


★890「その他」

 50分類の例示学科を見ると「法律」が大きな割合を占めていそうだ。また、例示学科にはないがトレーナーやスポーツインストラクターなどを養成する学科もここ数年急激に増えている。
 この「その他」は、文化・教養の中では最大の分類項目である。12年度の入学者数は過去最高になったが、一方で、入学定員との乖離が大きくなり、懸念要因。


▼大卒、社会人も受け入れて拡大

 この分野の学科編成には柔軟性があり、社会の職種が多様化するのに伴って、敏感な反応を示した学科編成が特徴である。また、専門学校でしか学べない特色ある学科が多く、大学卒、短大卒や一度社会に出てから入学する人も年々増えていることなどもこの分野の堅調の要因の一つであろう。今後もこの分野が成長しつづけていくためのキーポイントはこの辺にありそうだ。

 1職種に1学科といわれる専門学校は、新しい職種が注目されれば、すぐに反応しその学科を新設する。このことは、とりもなおさず、いずれの分野においても「その他」の学科を次々と産み出すということになる。専門学校が創設されて四半世紀が経過した今、各分類共に「その他」が異様に肥大化している原因ともなっている。

 企業経営において、成長(売り上げ増)の確保と収益確保は、時に背反するが共に大切である。同様に、専門学校の安定した成長のためには、定員と入学者数のバランスが大切であることは論を待たない。(伊藤)



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