■就職者数の減少が専門学校入学者増の要因
就職を希望する今春卒業した高校生のうち、3月末現在で就職が内定したのは、90.0%。昨年同期を0.3ポイント上回った。
調査によると、就職を希望していた高校生17万8,163人のうち、3月末現在で就職先が内定していたのは16万313人となっている。
求人数が21万6,000人で前年同期比10.1%減少という状況の中で内定率が上昇に転じたのは、求職者自体が17万8,000人と前年同期比で6.7%減少したことが原因と思われる。つまり、高卒者が就職という道を選ばずに、大学や専門学校への進学という道を選ぶ傾向にあることが、大きく影響しているといえる。
15年度の学校基本調査速報によれば、高卒者の大学等への進学者は約57万2,000人(男子約27万4,000人、女子約29万8,000人)で前年より約1万8,000人減少している。このうち大学・短期大学の通信教育部へ進学した者を除いた進学者数は約57万1,000人(男子約27万4,000人、女子約29万8,000人)で、前年より約1万9,000人減少している。
一方、先にも見たように、高卒者の専門学校への進学者数は約24万2,000人(男子約10万3,000人、女子約13万9,000人)で、前年より約5,000人増加している。専門学校への進学率は18.9%で、前年より0.9%増加している。
このことから、高卒者が進路を選ぶにあたり、就職でも大学・短大でもなく、専門学校を選ぶ生徒が増加していることが分かる。
図1は高等学校卒業者の就職率の推移である。日本の高度成長期に「金の卵」と呼ばれた高等学校卒業者の就職市場が、縮小していることが分かる。表1の推移(特に、求人数、求職者数の推移)と図1の推移がほぼ一致しており、表1に重点を置いて見てみると「就職環境が厳しいから、就職をあきらめざるをえない」ということができる。
特に女子の就職動向に注目すると、図1を見ても分かるように平成元年だけが女子の就職率が男子より高く、それ以降は男子の就職率が常に高くなっている。しかし、高度成長期から平成元年までは女子の就職率のほうが高かったのである。
高度成長期には、銀行をはじめとする金融機関や証券会社が女子高校生を大量に採用していた。生産工場も多くの女子高校生を採用しており、高校生の就職市場は女子を中心に比較的順調に推移していた。
しかし、高度成長に続くバブル経済の崩壊後、高校生の就職市場が女子を中心にダメージを受けるようになり、その結果が図1に表されるような結果になったといえる。
工場が発展途上国に移転し、若年労働をかつてほど必要でなくなったことも、高校生の就職が難しくなった原因の一つといえる。また、日進月歩する現代社会にあっては、職業訓練の機会が少ない高等学校の教育現場を知る企業の担当者にとって、高校生の採用に不安を感じる人が少なくないのも事実だ。
■「スペシャリスト」養成で社会的役割増大
従来の企業では、必ずしも専門分野を持たずに管理職になる「ゼネラリスト」が主流派を形成し、ステイタスだった。しかし、リストラなどで企業の人員規模が縮小している現代の企業では、管理職の人数そのものが少なくなり、ゼネラリストのままでは仕事がないという状況になっている。会社内で自らの役割を確固たるものにするのは、専門分野で能力を発揮する「スペシャリスト」にならざるを得ない。
また、終身雇用を前提にした年功序列型賃金制度から能力評価に基づく賃金制度に移行しているという事情もある。個々人の将来性にはあまり目を向けられず「今何ができるか」という成果主義で賃金が決められるようになっている。
資格を取得することで、自らが「スペシャリスト」であるということを証明しようとする動きが、社会全体の大きな流れにもなっている。
こうした諸々の事実が、高卒者を専門学校に向かわせており、社会における専門学校の役割はますます大きくなっている。実際、この時期に目立つようになる雑誌などの進学記事でも、大学だけでなく専門学校について書かれているものも増えてきている。
そうした記事では、従来の「資格取得に有利」というメリットだけでなく、「講師陣には現役の会社員が多く、授業で目に付いた優秀な学生を引き抜いて自社に就職させるケースもある」「伝統校では企業との関係が密接で、担当者は必ず業界に強力なコネを持っている」など、就職面での強さを強調するものもある。
ブランド校や中退者が少ない学校などの具体例もあげており、専門学校への社会全体の関心の高まりがうかがえる内容となっている。
現代社会では、工業、医療、IT、バイオなど、職業人に要請される技術の高度化も進んでいる。専門学校は、高卒者の主要な受入先として、今後一層、こうした進歩に対応した設備や講師陣の充実が求められている。(石田)
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