文部科学省中央教育審議会大学分科会留学生部会は、10月7日、中央教育審議会において、中間報告「新たな留学生政策の展開について」を取りまとめた。〜
留学生交流の拡大と質の向上を目指して 〜と副題をつけられたこの報告は、我が国への留学生数が少なくとも3万人程度増加することが見込まれる今後5年程度を目途に、できるだけ早期に実現すべき施策について取りまとめている。また、
平成16年4月に「独立行政法人日本学生支援機構」が設立され、日本人学生、外国人留学生等を対象とした総合的な支援体制が確立されることも視野に入れている。昭和58年に策定されたいわゆる「留学生受入れ10万人計画」によって、留学生受入れを拡大した結果、我が国の大学等で学ぶ留学生の数は、昨年5月95,550人に達し、大学等への進学などを目指し日本語教育機関で学ぶ外国人学生の数も、昨年7月に39,205人を記録した。
合計で「10万人計画を達成した」との見方から、次のステップへ進もうというのが、今回の中間報告の狙いと思われる。
■日本人の留学支援の必要はあるか
中央教育審議会は「我が国の大学等に強く求められている一層の国際化や、国際競争力の強化のためには、諸外国との知的交流の深化にもつながる留学生交流の拡大が極めて重要」との認識から、日本から諸外国に留学する日本人学生について、これまで具体的な支援策が講じられてこなかった点に留意したとしている。
審議会では「日本人の海外留学は、多様なニーズに応じた教育研究の機会を提供するものである。特に、経済・社会のグローバル化に伴い求められる外国語運用能力の向上をはじめ、異なる文化に柔軟に対応できる能力を備えることを可能とするものである。さらに、世界各国から優秀な学生が集まる外国の大学等において、国際的な競争環境の中で切磋琢磨(せっさたくま)し、学習や研究に打ち込むことは、真に国際的に通用するリーダーとなる日本人の育成につながるもの」であり、「より多くの日本人学生が短期留学も含め何らかの形で海外留学を経験することが望ましく、国として、それを推進する必要がある」としている。
確かに留学を強く望み、また将来有望である学生に対しての支援が強化されることは望ましい。わが国の大学進学率の低下に、不景気による学費支弁の困難さが指摘されている現在、留学もまた同様の道を辿りかねない。国として、財政支出をすることも妥当だといえる。
しかしながら、いたずらに人数を増やすことは、憧れだけで留学し、旅行と何ら変わらない経験をするだけという学生を増やすことにもなる。また「日本人学生が留学目的に合った留学が行えるよう、日本学生支援機構を中心として、海外大学等の留学情報の収集・提供機能を強化するとともに、留学相談の充実を図る必要がある」としているが、予算が有り余っている状況なら別だが、インターネットの発達したこの時代、それほど過保護にする必要はないと考えられる。情報の収集くらいはバイタリティを持って自分で行なうべきではないだろうか。
ただ、「最先端の教育研究活動を行う海外の大学において、日本人学生が国際的な競争環境の中で学習や研究を行うことは極めて有意義であり、国としてこれを支援していく必要がある」点には同意できる。つまり、目的を持たない学生まで海外に送り込むのではなく、研究活動の中での海外交流をより支えていくべきだからだ。別に指摘のあった「地域別の留学生数を見ると、受入れはアジア中心,派遣は欧米中心であり、均衡が取れていない」ことは想像に難くないが、この均衡を取るべきものかどうかも議論の余地がある。もちろん、どの国にも学ぶべきところはあるが、各学問で考えた場合に世界の最先端と呼ばれる研究がされているのは、未だ欧米という認識があるし、学生の志向が片寄るのもやむをえないだろう。しかし「実際は分野によって違う」などの情報提供ができれば、日本学生支援機構の役割について確固とした信頼が得られることになるだろう。
■大学の魅力とは
審議会報告では「具体的な施策の展開」として「多くの優れた留学生を日本にひきつけるためには、まず何よりも大学等の教育研究内容が質の高い充実したものにならなければならない」としており、これは全面的に肯定できる。しかし、その後に続く「外国人教員の積極的な採用」「日本人教員の採用の際にも、豊富な留学経験や海外での活躍の実績を加味」などはそれほど重要なこととは考えられない。助っ人外国人で溢れ返る野球チームに“その国の”魅力を感じるだろうか。
「このような多様な教員の参画により、留学生に対して教育研究のみならず生活面での指導の充実が図られ、より留学生のニーズにこたえるものになると考えられる」としているが、留学生のニーズはそんなところ=生活面の指導にあるのだろうか。教育内容のグレードを底上げするための外国人採用なら賛成だが、老婆心が過ぎるのも考えものである。また、事務職員について「外国語運用能力や国際経験のある職員を採用」するというのも、観光事業の一環として捉えているなら話はわかるが、後述のように「学生の質を高めたい」ということが目的であれば、こうした過保護な対応は必要ないと思われる。
反対に、多少過保護でも大学側からは情報発信を適時行なうべきだと考える。審議会報告でも「各大学等において、特色ある教育内容,指導教員等の教育研究の内容について、インターネットのホームページ等を通じた情報発信を一層充実することが重要である」としているが同感である。そこでアピールできるような学問的魅力のある大学にしていく必要があるだろう。
■学生の質の向上
審議会報告副題には「質の向上を目指して」とあるように、この報告で何度も言及されているのは学生の質の向上である。例えば「留学生の急増に伴う質への懸念」という項目では「アジア諸国の経済成長に伴う大学等への進学意欲の拡大、我が国の18歳人口の減少等に伴う我が国の大学等の積極的な留学生の受入れ姿勢、入国在留審査における諸手続の簡素化などが考えられる。(一部略)このような状況の中で、各大学等においては、入学者選抜、教育研究指導、在籍管理などの受入れ体制を十分に整えることなく、安易に留学生を受け入れ、結果として学習意欲等に問題のある留学生を在学させているのではないか、という懸念が増している」としている。 向上への方法としては、「(留学生の在籍管理の徹底…前略)自ら(大学が)入学許可した留学生については、勉学状況の良好でない者への指導の徹底、改善の見込みのない者に対する退学等の処分の実施など、責任を持って在籍管理を行わなければならない。その際には、地方の入国管理官署との連携を図ることが重要である」この部分に関しては文科省主導ではなく法務省に委ねると取れる。 処分を行なうのは受け入れる以上の労力を要する。退学等の処分を行なった場合のビザの取扱など、細かな規定の取り決めを待ちたい。
■日本語教育機関に関しての言及
本報告は大学分科会下の留学生部会で検討されたものであるが、今や留学生と切り離せない存在としての日本語教育機関についても言及された。そこでは「日本語教育機関で学ぶ者の約7割が、我が国の高等教育機関へ進学しているなど、多くの留学生にとって日本での留学生活の第一段階は日本語教育機関における学習である。したがって、日本語教育機関の質的向上や在籍者への支援は、留学生政策の一環として着実に充実を図るべきである」とし、日本語教育機関を積極的に活用しようと考えていることが読み取れる。
また在留資格の違いにも踏み込み、「日本語教育機関の学生については、現在、専修学校専門課程等を除き、在留資格は『就学』とされているが、その取扱いについて今後検討を行っていくべきである。また、教育施策上は、在留資格の区分にとらわれることなく、例えば、その呼称を『就学生』ではなく『留学生』とすることなどについて、検討していく必要がある」とまで言及した。留学生と就学生の壁が低くなる可能性が出てきた。
また、「交通機関における学生割引の適用や学習奨励費の給付の充実、医療に関する支援など、日本語教育機関の学生に対する施策が一層拡充されるよう、関係機関への働き掛けや検討を行うべきである。」とまとめられており、就学生には喜ばしい内容といえる。(竹内)
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