フェリス女学院大学(横浜市泉区)では、昨年度から、学生に本に親しんでもらうための「読書運動プロジェクト」を展開している。2003年度のテーマは「宮部みゆき〜ミステリーの中の<社会>と<時代>を読む」。ミステリー作家の宮部みゆき氏の本を題材にした講演会や、大学祭での朗読会などを実施しているほか、隔週でおすすめの本などを紹介する『読書運動通信』も発行している。大学全体で活字離れを防止しようという画期的な試みで、全国でも珍しいという。
同プロジェクトは、2001年に新図書館ができたのを契機に学生にもっと本を読んでもらおうと、各学部の教員で構成される図書館運営委員会と学生らが主体となり、2002年度から始まった。2002年度は「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない、恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」(モフセン・マフマルバフ著、武井みゆき・渡部良子訳)を選び、アフガニスタンの文化・社会に関する講演会、アフガニスタン音楽の演奏会、写真展、朗読会などの多種多様なプログラムを実施した。 本年度は「単なる推理小説にとどまらず、現代社会の病巣を的確にとらえている作品が多い」(フェリス女学院大学附属図書館)として、宮部みゆき氏を選んだ。題材となる作品を1点に限らずとりあげ、社会性のあるミステリーを中心に、5回にわたる講演会や映画上映会を実施。文学部日本文学科では、授業で朗読の時間を設けるなどもしている。
11月1・2日に行われた同大学での大学祭では、宮部氏の短編「燔祭」を取り上げ、音楽学部学生が同作品からイメージして作った曲を間にはさみながら、日本文学科の学生3人が朗読する「朗読・演奏会」を行った。作曲指導は同大学音楽学部の三宅榛名教授、朗読指導にはフリーアナウンサーの中里貴子さんがあたった。朗読・演奏会は同大学のチャペルで行われ、厳粛な雰囲気の中、学生の情感のこもった朗読と、バイオリンやフルート、ピアノ、オーボエなどによる荘厳な演奏が、亡くなった妹の復讐に燃える兄の気持ちを描いた作品をより格調高いものにしていた。終了時には聴衆から盛んな拍手が送られた。
読書運動プロジェクトの催しは、横浜市近郊の公共図書館や地元新聞などでも広報され、地域への拡大も目指している。また、隔週発行の『読書運動通信』第11号、12号では、教員や学生のアンケートをもとにおすすめの本を紹介、「読書はしたいが何を読んでいいか分からない」という学生に喜ばれているという。
同プロジェクトが始まった2002年4月以降とそれ以前を比較すると、2002年度の貸出冊数は6万2,718冊と前年度比1万111冊(19.2%)増、2003年度も9月までの累計冊数は3万7,125冊と前年同期比7,716冊(26.2%)の増となった。同大学附属図書館の池内有為主任は「読書運動プロジェクトの効果が感じられてうれしい」と話している。
また、本年度は、英語の本にも親しんでもらおうと、宮部みゆき氏の作品と並行して、「ピーターラビットを英語で楽しむ」と題し、ビアトリクス・ポター作の「ピーターラビット」をテーマにした講演会やビデオ上映会、古書の電子化も行っている。
読書運動プロジェクトは、アメリカのシアトル市で始まった。同市の公共図書館が同じ本を何百冊も用意し、市民が同じ本を読むというプロジェクトで、全米各地に広がり、特にシカゴ市で大きな成果をあげた。
毎日新聞が行った「読書世論調査」によれば、書籍や雑誌、新聞を「読まない」人が増える傾向にあり、パソコン、携帯電話などが“活字”に触れる媒体として浸透する半面、「本離れ」が進んでいることが分かった。同調査によれば書籍(雑誌を除く)を「読む」と答えた人は、昨年より12ポイント減の43%にとどまった。雑誌を「読む」人も昨年より9ポイント減、新聞を「読む」人も3ポイント減少している。大学生も例外ではなく、フェリス女学院大学のような試みが他の大学にも広がることが期待される。(石田)
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