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専門学校の「今」に鋭く迫る辛口コラム
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2000年11月号

調査 専門学校入学にさいしての県内進学と県間移動 (上)
  関口 義(京都文教大学教授)
 大学について、その入学生の県間移動は文部省の『学校調査報告書』で公表されているが、専門学校についてはない。ただし、高校生の卒業後と専門学校の入学生調査は公表されているので、ある仮定をすれば推測はできる。

 関口義先生(京都文教大学教授)が『専門学校の全国動向と展望(1999年現在)--学校基本調査報告書(平成11年度、文部省)等に基づく全国専門学校の現況考察--』と題した報告書を刊行し、その中で、専門学校入学生の県間移動について試案を掲載している。今回は、先生の許可を得て、ここに、その第一部六の部分を全文紹介する。(編集部注)

 *文中の小見出しは関口先生の了解のもとにすべて編集部でつけた。また、読みやすさを優先し、適宜改行を加えた。


 少数の大都市都府県の吸引力が大きい 専門学校への入学に際し、高校卒業生は自県所在の学校だけでなく、他県の学校へも進んでいる。大学、短大への進学と同様に、専門学校も高等教育機関として幅広く他県高校出身者を迎え入れており、入学時には都道府県間移動が行われている。

 それがどの程度の規模と実情になっているのか、大学と短大については毎年全国規模で行われる学校基本調査で、自・他県高校出身者数(どこの県からかが含まれる)の入学に伴う県間移動が、県別にマトリクス数値表として示されている。しかし専門学校についてはその調査が行われていない現状であり、同様のデータを示して検討・考察することはできない。そこで推計による別の統計表を作成することによって補い、検討する必要が出てくる。

 既存統計では、高校卒業後の進路状況調査から専門学校進学者数が県別に集計して算出され、一方、専門学校調査からは県別入学者数(新卒者と旧卒者を含む)が表示されている。前者については旧卒者が含まれていないために合計で同人数とはならず、県間移動数を同じベースのもとに算出することはできない。

 そこで進路状況調査では計上されていない県別の旧卒者数を、新卒者数と同じ割合で加算した推定人数とし、推定統計表を作成した。第9表(3ページの表:編集部注)の左欄がそれで、旧卒者を含む専門学校進学者推定数である。中間欄は専門学校入学者数、右欄は両者の差し引き数である。右欄により、県間移動にさいしての推定流出者数が導き出される。

 その増減数は都道府県別に相違したものとなっているが、増加数値を示しているのは東京・大阪など大都市所在の7都府県であり、40県では減少している。専門学校入学時における県間移動は、全体としてみると少数の大都市都府県の吸引力が大きく、多くの県からは流出を促進する構図をそこに見出すことができる。

▼3パターンに類型化

 専門学校入学に際しての都道府県間移動に照準を合わせて、移動の際の流入・流出(高卒後専門学校進学者推定数よりも入学者数が多いものは流入、その逆は流出でそのほか同人数程度のものがある。)を類型化すると次の3つのパターンに分かれる(流系図、参照、5ページの図:編集部注)

 流入パターンの都府県、宮城、東京、愛知、京都、大阪、福岡の6都府県で流出数よりも流入数が上まわる。

 境界パターンの道府県、移動の少ない、または流出入が相殺される割合の高い場合で、北海道、石川、広島、沖縄の4道府県。

 流出パターンの県、青森、岩手、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島の37県である。

 流入パターンの都府県と比べると、人口の少ない地方諸県が多くを占めているものの、首都圏の3県や静岡県など大都市所在県や人口の多い県も含まれており一様ではない。

▼流入パターン その1 <東京>

 これらの3類型区分に対応して、各都道府県ごとにどのような流出入の特徴がみられるのか検討する。
 流入パターン都府県のなかでも、他県からの流入者数流入率がともに大きく集積力の最も高いのは東京である。全国的にみて専門学校集中地区としての特徴は顕著であり都内の高校出身者のほかに、それにほぼ三倍規模の高校卒業生が他県から流入し、そのカバーする範囲は東日本の広域圏に及んでいる。

 特に隣接する埼玉、千葉、神奈川からの流入が多い。これら3県はいずれも首都圏に位置し、多くは通学圏に入るところから、実際には流入というよりも首都圏を通学範囲とする立地のメリットを生かした東京集中の傾向が顕著である。

 なお東京における個別専門学校の隣接3県からの通学者数の多少は、それの立地と通学時間の多少によって左右される側面がみられる。これは各分野にわたり大中規模校の集中するエリアにおける学校立地の配置状況によって左右されるところであるが、都の北方に位置し埼玉に隣接する北区、板橋区、練馬区や豊島区等に立地する専門学校では、埼玉からの通学者の占める割合が大きい。

 同様に、江戸川区、葛飾区、江東区等では千葉からが、大田区、品川区、目黒区、世田谷区、町田市、八王子市等では神奈川からが多くを占めるという実情である。

 一方、千代田区、港区、新宿区、渋谷区など都心部で、歴史の古い学校が多く、従来からの専門学校集中地区としての特質を保持しているエリアでは、3県からもほぼ等距離の範囲に位置しており、学校によって多様な実態を示してはいるものの、全体としてはいずれからが優位を占めるという明確な関係はみられない。

 一方、入学に際して出身高校県から住所を移転して東京所在の専門学校に通学する本来の意味での流出県として多くを占めるのは、北関東3県と甲信越(山梨、長野、新潟)3県、静岡県で、東北6県(宮城は少ないが)と北海道もそれに次いでいる。以上のほか中部・東海以西、西日本の全県に及んでいるが、量的規模では小さい。特に近畿各県からはわずかである。

▼流入パターン その2 <大阪、京都、愛知、宮城>

 東日本の東京に対し、西日本の専門学校集中地区を代表するのが大阪である。東京と比べ大阪は流入数が3分の1程度で小規模ではあるものの、自府高校出身者をやや上まわる程度の他県高校出身者を迎え入れている。大阪の関係者は半数程度と推定している。

 隣接県では通学圏内に位置する兵庫、奈良、和歌山からの流入が多く、京都とは流出入でほぼ相殺される関係にある。近県では福井、石川、富山、三重をはじめ中国、四国、九州など西日本の広範囲に及んでいる。

 宮城、京都、愛知、福岡の4府県は、東北、東海、近畿、九州の各ブロックに位置する大都市所在県である。ブロックを範囲とする集積があり吸引力を有するパターンで、流入の量的規模が大きい東京や大阪に比べるとその規模は小さく、ブロック=近県型である。

 京都は境界に近いパターンで、近畿を含む西日本専門学校集中地区の特質を有する大阪と隣接しており、両府の専門学校の多くは通学圏内に立地している。また京都の場合、流入パターンのなかでは自県充足というよりも流出入の規模は大きい。通学圏内にある滋賀からは多く通学しており、また大阪府とは移動はほぼ相殺される関係にある。学校によっては隣接県や近県にとどまらず広域にわたる県からの流入者もみられる。

 愛知は、名古屋を中心として東海ブロックの集積力が高く、集中地区としての特徴が顕著である。特に岐阜と三重の両県は隣接しており、多くは通学圏内に位置するところからその流入規模は大きい。その他静岡や近県等からの流入もある。

 宮城は、仙台市を中心として東北ブロックにおける集中地区としての特徴を有しており、多くは東北5県からの流入である。福岡は、ブロックにおける集積地という点では宮城と同様のパターンを示しており、隣接する山口を加え、九州ブロック各県からの流入が多くを占める。ただ、自県充足型の特徴が顕著な沖縄は別で、同県からの流入は少数にとどまる。

▼境界パターン その1 <北海道、沖縄>

 境界パターンの道府県については、まず他県への流出、他県からの流入が比較的小さく、自県高校出身者が多くを占める“自県充足型”という点でほぼ共通している。その特徴が典型的に現れているのが北海道と沖縄であり、いずれもその位置する地理的環境・条件が本州、四国、九州とは異なり高卒後専門学校進学にさいしての県間移動の少なさと、自県充足優位パターンとして特徴づけられる。

 北海道地区の多くの専門学校は道内における専門的人材を養成する機関として設置・発展しており、その入学生の多くは道内の高校卒業生で、また卒業後の就職の場も道内企業が多くを占める。ただ学校種類・学科も多いところから学校によっては広く全国の各県から学生を集めているケースもあり、少数の流入生は広範囲に及んでいる。

 一方、道の高校を卒業して専門学校進学するさいの流出規模は流入を相当数上まわる。流出先は東京や東北・関東が多いが、その他にも及んでいる。

 沖縄の流出入パターンも北海道とほぼ同様である。同県の専門学校は、主として自校高校卒業生を対象とした専門的職業教育機関として成立・発展、地元の人材養成機関として存立、機能しており、入学者のうちの大多数は地元の高校卒業生である。ただ、リゾート、スポーツ関係の学校などまだ県別にも普及していない種類の学校や、入学にさいし特定の事情がある場合などのケースは、他県から少数流入している。一方、流出は流入を相当数上まわるが、東京や大阪などの大都市地区が多い。

▼境界パターン その2 <石川、広島>

 石川、広島が境界パターンに位置する府県である。広島は中国ブロックでは人口集中県である。ただ東北ブロックにおける宮城のように流入優位パターンではなく、男子の場合、辛うじて流入が流出を上まわる程度である。県の高校卒業生を主な対象とした専門学校の発展がみられる。北陸に位置する石川も同県の専門学校が発展、流出優位ではなく自県充足に近いパターンである。



        「専門学校入学にさいしての県内進学と県間移動 (下)」に続く



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